『今日、僕は熱を出した』
小学生が唯一と言っても過言ではない学校を休む手段として「熱」が挙げられる。
小学生にとって"学校をお休みする"というのは一大イベントなのだ。
病み上がりで気だるい身体を引きずりながら登校すると純粋な小学生たちは「大丈夫?」と口々に心配してくれた。
学校を休んだ後の登校はなんだか緊張する。
あの感じは嫌いじゃない。
大学生となった今はそもそも出席というものが存在しない講義だってあるし何より出席点を考慮すると4回までは休んでいい、みたいな風潮があるくらいだ。
いつの間にか捨ててきてしまった感情をふと思い出したのだ。
そう、夏休み真っ只中の僕は本日久々に「熱」を出した。
夏休みということもあり自堕落ながら夜更かしをしていたら急に悪寒がし、流石に異変を感じ寝て起きてみたらどうにもこうにも身体が重く熱い。頭痛もする。
ズキズキと痛むこめかみをおさえながらおもむろに体温計に手を伸ばす。
昔から愛用しているお世辞にも新しいとは言えない体温計なので測るのには時間がかかる。
僕は体温計を脇に挟んで待機させられるこのどうでもいい時間が割と嫌いではない。
さながら37.5度という審判が下されるかのジャッジメントタイムである。
そんな小学生時代に想いを馳せていると「ピピピッ」との音が。
どうやら判決が確定したようである。
判決と言っても夏休みなわけで。
でも謎にワクワクしてそして恐る恐る体温計を取り出すと38.5度。
通りでしんどいわけだ。
偶然今日は母親が仕事を休みで家にいたので「熱あるわ」と報告をする。
昔ならひたすらにしんどくて寝込んでしまい動けないところを自分の足で確実に歩を進めながら薬を飲む体力がついたことに軽く感動を覚える。
ぼうっとしたあたま。
虚ろな目。
煮えたぎるような熱い身体。
カーテンから日が差し込む部屋。
母親の家事の音。
いつもより遠くちょっと羨ましい学校のチャイム。
味がちょっと変に感じるポカリスエット。
貼る時に不快感を感じる熱さまシート。
ゴツゴツひんやりとした氷枕。
夕方に家のチャイムが鳴り連絡帳やら今日のプリントが届けられそうな気がする。
かつては抜け出せるか否か不安な光の見えないトンネルのような存在だった「熱」が今となってはこんなにもノスタルジックな気分にさせてくれるなんて思ってもみなかった。
忘れてしまった感情が溢れ出してきた。
小学校を休んだあの日にタイムスリップでもしたかのような気分だ。
熱でぼうっとしたあたまそしてこの虚ろな瞳には世界がとてもキラキラと輝いて見える。
たまには熱も悪くない。
こんなことを書いていたらまた熱が上がってきたようだ。
でもこの感情を少しでも長く楽しめるのならばそれもまた一興だ。
今日は存分に熱を楽しもう。